ミュージカル『VIOLET』全公演休止に寄せて、お客様へ

 梅田芸術劇場主催ミュージカル『VIOLET』(東京芸術劇場プレイハウス)は、 この度、2020年4月16日(木)から5月6日(水・祝)まで上演を予定しておりました全29公演の休止を決定致しました。新型コロナウイルスの感染が広がる中、人命を最優先に考えながら、限られた選択肢の中で主催者、カンパニー、劇場関係者は最善を尽くして来ましたが、上演が叶いませんでした。ご理解いただけたらと思います。
 この公演に対して中止ではなく休止という言葉を使います。現段階での上演は叶いませんでしたが、必ずこの素晴らしいカンパニーでの初演を迎えたいと思っております。諦めずにミュージカル『VIOLET』の今を届けることを模索し続けます。

 ミュージカル『VIOLET』は激動の1964年のアメリカを通して、苦闘しながら生きることを主題としています。人が人と出会うことの尊さを描く、普遍的なテーマを内包した作品です。私たちが直面する現在と重なります。稽古中、キャストの演技や音楽と歌の旋律に心が揺さぶられ、何度も胸がいっぱいになりました。
 このミュージカルは「Bring Me To Light〜光を見せて〜」という曲で終ります。作者はこの曲に希望を託します。その一節を引用させていただきます。
「一人で寂しいときは ただ傍にいて 暗闇で見えないとき 光を見せて よろけて転びそうなら 手を差し伸べて 迷ったとき 道を照らして 生まれたての子供たちが 初めて触れる 暖かな陽だまりのような
 光を見せて 光を見せて 不安など捨て去って 飛び乗った
 晴れた空見上げて ヨルダン川を超えろ あなたに心開いて 私の中の 冷たい闇を 見せたら 光を見せて 光を見せて」
(音楽:ジニーン・テソーリ 訳詞:芝田未希)

 私は10数年前、舞台芸術に惹かれ、作品を通してたくさんの人と出会いたいと思い、演劇を志しました。様々な価値観を持った方々が一同に会する場所、それが劇場だと思います。全てが一期一会、一回性の演劇という文化芸術を通して、人生の豊かさを学んできました。今は、生活の一部である稽古場や劇場に通うことが叶いません。この先、暗い時代や閉塞感の中で命を守り、命を紡ぎ、お客様という光と出会える日まで、愛を込めて未来に向かってミュージカル『VIOLET』を育て続けます。

 どうかご自愛ください。心から皆様の健康を祈っております。

 2020年4月8日
                                              ミュージカル『VIOLET』演出 藤田俊太郎